特長 その1

 絵画造形療法的アプロ-チで子ども達の心に働きかける
 この絵画造形クラスでは、美術の諸要素である明暗、色、線、形、構図など、それぞれの持つ性質を理解した上で、それらが描き手にもたらす効果と、素材や描き方による効果も考察しながら、子どもの心の成長に対応した課題を提供しています。

滲み広がる絵「Wet on Wet」技法 

 湿らせた画用紙の上に絵具で描くことにより、色は滲み広がっていきます。そうすることで子ども達は「何」を描こうかと頭で考えながら形を描こうとするのではなく、色が「どの様な感じ」なのかということに感覚を向けて描くことができるようになります。赤い絵の具で最初からリンゴやイチゴを描こうとすれば、物体の表層の色に意識が留まってしまいますが、滲み絵技法では色の持つ内的性質に意識を向けていくことができます。このように子ども達は、水彩による色の体験を通して物事の本質へと眼差しを向けていく学びの体験をしていくことになります。

 描き始めは直立姿勢で。腕全体を使ってゆったりと筆を動かしながら、紙全体に広がる色のドラマを体全身で感じ取っていきます。

 まだ地上的重さと共鳴していない、夢見心地の中で自分(内)と世界(外)を体験している低学年までの子ども達。昔話という夢見心地の世界の中に入り込みながら、お話の主人公がもたらす「善」と「美」のクオリティを、色彩ドラマを通して感じ取っていきます。この時期は主に、中心(内)と周囲(外)の構図を有する水彩課題に取り組んでいきます。その内と外の色が滲み融合する色彩ドラマの中で、子ども達は徐々に中央に広がる色へと集中を向けていきます。その色はお話のクオリティと融合しながら、子ども達の心の無意識的領域へと浸透し、心の地盤形成に働きかけていきます。

 夢見心地の世界から目覚め、科学や歴史など現実的、地上的な物事に関心を示し始める中高学年の子ども達。徐々に重い色や深い色、濁色への共感と、自立へと向かう直立的な縦軸の構図への共感が芽生えてきます。目覚めへと向かう意識は物の細かな形、輪郭への意識も高まってきます。中高学年クラスでは、その成長に合わせた様々な課題に取り組んでいきます。

「Wet on Dry 」技法 乾いた上に絵具を塗る技法で、線や形などの輪郭がはっきりと表れ出ることから、頭で考えて描く意識的発動に主に働きかける技法です。滲み絵技法を通して色の性質を夢意識の中で感受していく活動を十分に行った後は、このWet on Dry 技法で「集中」と「目覚め」の活動を行っていきます。このように「眠り」と「目覚め」、「受容」と「表現」という対極的な働きかけを、課題の中で如何に調和的に働きかけていくかを大切にしながら取り組んでいます。

筆先に集中しながら乾いた絵の上に描く。部分に意識を向けるときは座って描きます。

立体造形 「生きた」素材に触れる 今日では様々な造形素材が開発され、幅広く利用されていますが、この絵画造形教室では人工的な素材は使わずに、土粘土という自然素材のみを使った造形活動に取り組んでいます。その理由は、人が創った存在に慣れ親しむ前に、人を創った存在に十分慣れ親しむことが大切であると考えているからです。自然に触れることは、私たちを創った母の肌に触れること。多くの叡智と神秘に満ち溢れた母なる自然の肌に触れ、親しんでおくことは、その後の人生において様々な癒しと気づき、創造性の種をもたらしてくれます。

 土粘土はその他の人工的素材とは異なり、水分調整を必要とする素材です。鉱物と水でできた土粘土は、掌で徐々に温められながら流動的に形を変えていきます。水分が少ないとひび割れ、多すぎると成形できなくなります。水分を調整しながら形を変えていくその姿は、水と鉱物でできた私たちの体、水分調整が必要な生命体の姿と重なってきます。土粘土による造形は、まさに命の造形と言ってよいでしょう。

「集中」と「解放」のリズムがもたらす効果 自転しながら太陽を周る地球。昼と夜、春夏秋冬が巡り、闇と光、冷と暖が繰り返される。この「収縮」と「拡散」のリズムの中で命は誕生、進化し、私たちの文明は発展を遂げてきました。植物の成長の中にも見られるこの普遍的なリズムは、私たちの学びにおいても重要な効果をもたらしてくれます。

 子ども達は世界から受け取った様々な体験と共に教室に集まってきます。授業の始まりは彼らが見たり感じたりしたことを自由に発言してもらうことにより、「解放」の時間を持つようにします。そして課題のお話に入ると「集中して」耳を傾けます。その後、色を筆で広げながら色の滲み広がりと共に心をゆったりと「解放」し、後半は筆先に意識を「集中」させながら、乾いた上に形や輪郭を描き込んでいきます。制作が終わった後は、皆で集まって一人一人の作品を観察していきます。そこではお友達の作品からどの様なことを感じるか、どのようなところが素敵で面白いかを見つけていきます。皆から意見を言われた子どもの心は、自分の絵が受け入れられた、褒められたという喜びの気持ちで、最後は「解放」へと向かっていきます。

作品を見合う シェアリングから育まれる力 子どもの作品を受け止めて評価することは、その子どもを受け入れて評価することに直結します。
なぜなら作品とは、その子どもの内的特徴がそのまま映し出されたものだからです。作品が自分自身のようであるということを子ども達は頭では理解していませんが、心では感じ取っています。

 先生やお友達からの作品への評価を通して、自分が受け入れられたという気持ちで充足するだけではなく、お友達の作品を感じ取り、評価することによって、他人をポジティヴに評価する心の力を育むことができます。そして、一つ一つの作品に表れた違いを感じ取ることで、子ども達の感性は高まっていきます。

特長 その2

世界との繋がりを大切にした絵画造形活動

 方向性を講師が示しながら制作を進めていきますが、完成した作品をあらかじめ子ども達に見せることはしません。どのような作品に仕上がるのか分からないので、子ども達は想像力を膨らませながら、時には意外な展開に驚き、面白さを見出しながらプロセスに入り込んでいくことができます。そして完成した作品を見て、世界は美しい! という実感を得ることができます。

 
 この教室は世界の様々なお話から始まります。子ども達は「好奇心」という心の熱で遠い世界との関係性を築きながら、創造活動に入っていきます。そして、仕上がった作品には子ども達それぞれの個性が表れ出てきます。
 この様に子ども達は世界を体験しながら個性を表出していきます。個人の発想で始まり、個人の作品で終わるのではありません。世界と個が一つの作品の中に息づくのです。
 

 世界から様々な恩恵を受けて、今、私たちはこの地上に立っています。永き地球の進化から命が生まれ、動植物が成長と衰退を繰り返していく中で、私たち人類は誕生しました。生き物たちの歩みなしに私たちは存在しえなかったでしょう。そして人類は、大自然への従属から徐々に自立し、歴史を刻み、文明を発展させ、人間としての誇りを形成していきながら、肌の色や民族、宗教、国など、様々な制約からの解放へと歩みを進め、今、私たちは個人の尊さと多様性の大切さに気付き始めています。今私たちが受けているこの自由は、これまでのあらゆる存在の歩みの中でもたらされた素晴らしい恩恵であり、そのことを私たちは忘れてはならないでしょう。自分自身の個性を大切にしながら、今度はこの素晴らしい世界のため、社会のために、自らの個性とともに何ができるだろうか。自らの自由意志で、自分とこの世界を大切にしていく気持ちを育てていくこと。私が絵画造形活動を通して子ども達に伝えたいことです。 
                        (curiousこども絵画造形クラス 細井信宏)