授業内容詳細

中高学年クラス

自然史【花に秘められた未来へのメッセ-ジ】

作成日 2024年9月

もし、この世に「花」がなかったら、私たちはどのような人間になっていたのか…。お誕生日、卒業式、結婚式、お見舞いに行く時、お葬式やお墓参りの時。 
おめでとうの気持ち、ありがとうの気持ちを伝える時、思いを打ち明ける時。 
私たちは花束と共にその気持ちを伝えてきました。 
その行為は数万年前のネアンデルタ-ル人の頃にまで遡るのではないかと言われています。
私たちが花束に託してきた気持ちの奥、そこには他者を大切に思う「優しさ」があります。

かつてこの世界には、花の全くなかった時代があった!
今からおよそ1億年前。地球上には巨大化した樹木や恐竜たちが大繁栄していたころ。 
植物界で進化の最先端を進んでいた針葉樹たち。
 
その多くは固く丈夫な葉を茂らせて、ひたすら太く、高く、成長していました。 

その葉を食べていた草食恐竜たちも太く、高く進化を遂げ、恐竜たちに食べつくされぬよう、針葉樹たちも更に高みへと成長していきました。 

恐竜時代に生えていた樹は巨大だった!

現存する世界一大きな樹(北米の針葉樹ジャイアントセコイア)の幹の大きさを皆で輪を作って両手を広げて感じながら、それが60階建てビルの高さほどにまで聳え立っているのを想像している所。この後、聳え立つ樹を描きました。

より大きく、より強く。それが競争を生き抜くための要。
その厳しい競争が繰り広げられる足元で、突如、小さな光のような存在が現れました。 
それは白く柔らかな花びらを付けた直径数ミリほどの小さな花。 
この被子植物の花が、やがて恐竜たちの存続を脅かすことになっていきます。

針葉樹は風にのせて花粉をまき散らすことで、仲間の樹へ花粉を運んでいました。 
気まぐれな風を利用するわけですから、大量の花粉を生産して飛ばす必要がありました。
ところがこの白い花をつけた被子植物は、ほんの少しの花粉だけしかつくらなくてよかったのです。 
白く輝く光のような花に誘われて、小さな昆虫たちが集まり、花粉を食べ、
そしてその花粉を仲間の所へ確実に運んでくれるようになったからです。
「お花さん、美味しい花粉をありがとう。お礼に君の花粉を仲間の所に運んであげるよ。」

と、昆虫たちが言ったわけではありませんが、のちに被子植物は甘い蜜まで作ってくれるようになり、
昆虫たちにとってこんな素晴らしい贈り物は他になかったことでしょう。
この小さな花と小さな昆虫は、まさに「蜜月」の関係になったのです。

樹脂をつくって防虫対策を一生懸命行ってきた針葉樹たちとは大違いです。

そしてもう一つ、今度は花だけでなく果実をつくる被子植物まで現れました。 
その果実は恐竜たちには小さすぎて、何の糧にもならなかったでしょうが、
巨大な恐竜たちの足元で細々と暮らしていたネズミのように小さな哺乳動物や鳥の祖先たちにとって、それは充分なものだったに違いありません。
小さな動物たちは、 
「美味しい果実をありがとう。お礼に君の種を遠い所に運んであげるよ。」

と、種を遠くへ運んでくれるようになりました。

小さな被子植物と小さな動物たちとの共に生きる関係、「共生」が始まった。

針葉樹たちは自らに厳しい努力家で、他者の力を借りず何でも自分たちの力で解決しようとしてきました。
 
旺盛な生命力、巨大恐竜と互角に渡り合える
鍛え上げたボディ。
 
樹脂をつくって身を守り、大量の花粉をつくってまき散らし、そして種には羽をつけてより遠くへと
舞い落ちるようにしていました。

とは言うものの、
風の力ではその距離に限界がありました。
花や果実をつける被子植物は着実に仲間を増やし、世界へと広がっていく一方で、その勢いに押された針葉樹はその生息域を狭めながら極地へと移動せざるを得なくなっていったのではないかと言われています。
 
針葉樹の葉を食べていた草食恐竜も同じ運命を
たどっていきました。

あの大きな隕石が地球に落下して、恐竜たちの滅亡を運命づける前に、既にこのようなドラマが地球上で
繰り広げられていたのではないかと言われています。

なぜ恐竜は滅んでしまったのか。
 
あの大きな隕石の落下が起きる前、すでに恐竜たちの滅亡は運命づけられていたのかもしれません。

植物は「共に生きる」ために花と果実という新しい器官をつくり、地球上に大革命を引き起こした。

科学的知見と精神性の調和
もちろん、植物は感じたり考えたりする器官は持ち合わせていません。 
ですから、自らが共生という優しさを世界にもたらすために進化したのだ、とは思っていません。
 
科学的な視点で見ると、それは子孫を残すための戦略の過程で生じたものにすぎない、と言えます。

しかし、科学という枠を超えた、もっと壮大な視点でこの出来事を捉えた時、花の共生と、私たちが花束に込めた「他者への優しさ」という思いとの類似性が、単なる偶然であると言い切れるのでしょうか。

私たち人間が肉体と精神で成り立っているように、世界の出来事も科学的に、そして精神的に理解していこうとする姿勢は、これから大切になって来るのではないかと思います。


現代の自然界で被子植物が最も栄えている場所。それは熱帯雨林。
東南アジアに広がる熱帯雨林は、地球寒冷化や乾燥化、人間活動によるストレスをほとんど受けてこなかった場所として知られ、その守られた環境の中で動植物が進化を遂げて来ました。
 
そこには目を疑うほどの実に多様な種と、
それらが織りなす複雑な共生関係が営まれています。

共生と多様性。それは自然界が長い進化の中で辿り着いたひとつの「応え」。
自然界がそうであるように、私達人類は競争を続けてきました。
 
そして、自然界がそうであるように、
私達も他者と共に生きることの大切さ、多様性と共生社会を目指して模索しているのです。

地球の進化も、動植物の進化も、人類の進化も、一つの流れの中でつながっている。
自然界が進化の中で形作ろうとしてきたもの。 
私達人類はそのバトンを受けとり、更なる精妙なものへと進化させようとしているのかもしれません。







(curiousこども絵画造形クラス 細井信宏)