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授業内容詳細
傘地蔵【メルヘンの中に込められたリアリティ】
作成日 2023年12月 雪が降り積もる大晦日。
とても寒い冬の夕暮れ時のお話なのですが、
どことなくほのかな温もりが漂っています。
冷たいけど温かい。
それはおじいさんとおばあさんの優しさが漂っているから。

冬の霞の中から、六地蔵様が浮かび上がってきます。

ここからは子ども達に「おじいさん」「おばあさん」になったつもりで描いてもらいましょう。
六地蔵様の頭に一つずつ丁寧に傘を被せてあげます。風で飛ばされないよう、顎に紐を結び付けていきます。
しばらくすると、雪が降ってきます。

雪が傘や地面に積もっていく様子を見て、子ども達から「わあ~!」という歓声が沸き起こります。

昔話の中に宿るリアリティ 昔話とは『子ども達を楽しませるための非現実的な作り話』と考えている大人は案外多いのかもしれません。そもそもお地蔵様が歩くわけないし、おじいさんとおばあさんのためにお正月を祝う品々や小判などを運んできてくれるなんて、現実には起こるはずがありません。このような作り話よりも、もっと実用的で事実に基づく話の方がためになるのではないか、と考える人もいるのかもしれませんが、私としてはこういったメルヘンをある意味、人が生きていく上でとても現実に根差した話だなあ、と思っています。お地蔵様が動いたりという、そういった描写は現実的ではなくても、そのお話の中に込められたエッセンスには、私たちの魂を震わせる深いリアリティが存在しているからです。

もし、私がお話の中のおばあさんならどうするかな、と考えてみました。
自分が生活の糧のために一生懸命に作った糸なのに、おじいさんが手ぶらで帰ってきたら…。
「私が一体どれだけ苦労してつくったと思っているの!!」 と、なると思います。
おばあさんは糸がお正月を祝うための味噌や大根などに変わって帰って来るだろうと期待していたに違いありません。でも、手ぶらで帰ってきたおじいさんに、おばあさんはこう返します。 「それはよいことをなさいました。きっとお地蔵様も喜んでおられたでしょう。さあ、寒いので家に入って、お湯でも飲んで温まって下さいな。」
この言葉の中に、おばあさんの歩んできた人生のすべてが詰まっています。
おじいさんが傘をお地蔵様にかぶせてあげた行為の中にも、おじいさんの人生のすべてが詰まっています。

二人が一生を通して大切に育ててきたものとは、いったい何なのでしょうか。

子ども達はこのようなお話を聴いて、大人のようにあれこれと考えを巡らせることはなく、夢のような意識でお話の本質を感受し、心の奥深くへと『忘却』していきます。
子ども達が大人になり、地上的な物事に向き合い、様々なことを意識的に考え、合理的に物事をこなしていくようになる中で、本当に大切な事、本質的で精神的な事を置き去りにしてしまうことがあるでしょう。
人生において大切な決断を行う時、失敗で心が折れそうになった時、痛みを受けた時、行く先を見失った時…。
そのような時にこそ、心の奥底に忘却した、その光とぬくもりは、私たちの心の中に、静かに囁きかけてくれるのではないでしょうか。

(curiousこども絵画造形クラス 細井信宏)