14歳からのア-トワ-ク

  一般的な中高生を対象とした絵画教室では、美術系大学などを目指すための技術習得を中心とした指導が主に行われているかと思いますが、このコ-スでは人が芸術活動を通して内的に成長していくことを第一の目標に取り組んでいます。芸術の源泉に触れながら創造していく活動は、自らの芸術的感性を高めてくれるだけでなく、社会や自分への洞察力をもたらし、またどのように社会や自分に働きかけていけばよいのかに有効なヒントを与えてくれるものとなります。芸術系の道へ進みたいと思っている人にとっては、芸術の基礎を身に着けることができる他とない学びとなるでしょう。また、芸術以外の道へ進みたいと思っている人、どの道へ進むべきか迷っている人にとっても、大切な学びとなると確信しています。

  家族や学校など地域社会がもたらす「守られた世界観」の中で生きてきた子どもたち。 周囲の大人たちが語る言葉や感情、行為を通して、子ども達は世界を感じ取ってきました。 
  しかし思春期以降になると、世界がもはやこれまで感じてきたような善と美に溢れた完全なものではないことに気づき、また大人達もそうであることに気づき始めます。その深みへと向けられるまなざしは自意識が高まる自らの心にも向けられ、自らの現実や課題を繊細に自覚し始めるようになってきます。世界と対置し、自分という孤独世界の中で青年は、もはや大人たちを通してではなく、自らの足で立ち、自らの感覚を通して世界を知りたい、と願うようになります。そしてまた、世界や自分はこうあるべきであるという理想を見出し、そこへ向いたいという思いが生じてくるようになります。

 世界を客観的に観る力を育む
 世界と対置する姿勢。それは自分の立ち位置から世界を観察しようとする力を目覚めさせます。
世界から距離を置いて客観的に観ようとする姿勢は、思春期から高まりを見せる思考に力を注いでくれます。デッサンはそういった力を養ってくれる上で、この時期において重要なア-トワ-クとなります。

対極への目覚め 世界全体を掴もうとする意志の力を育む
 自分と世界。善と悪。理想と現実。心と体。そして豊かに成長する感情にも対極的な特徴が表れてきます。対極を意識し始める時期において、美術表現における基礎である光と闇、静と動、暖色と寒色など、対極的な性質を意識したア-トワ-クに取り組んでいきます。
 
世界の根源的要素を掴み取る感性を育む
 守られた夢意識から目覚めた思春期以降の青少年は、世界の現実を目の当たりにしながら、自分の感覚を通してより意識的に世界を知りたい、掴みたいと思い始めます。そのような時期に美術を形作る根源的要素に感覚を向け、それら性質を掴むことは、のちに世界や自分を理解していく上で大切なツ-ルとなってくるでしょう。知識だけで世界や自分を知ろうとするのではなく、自らの感性を通して世界と自分の在り様を感じ取ることができる。そのような感覚を育んでくれるようなア-トワ-クは、のちに重要な意味を持ってくるでしょう。
 
光と闇の本質を体験する
 絵を描くときには様々な色や形に目が行く一方で、光と闇の存在にはなかなか意識が至らないものですが、それは日常生活においても同じようなことが言えるのではないでしょうか。しかしよく意識すれば周囲世界には絶えず光と闇が存在していて、それは心の中においても作用しています。そのような世界の根源的要素とも言える光と闇の性質を掴み取りながら、両者が織りなすドラマに意識を向けていくア-トワ-クに取り組んでいきます。


四大元素「地水風火」を体験する
 大自然の中で日々過ごしていると、光と闇が如何に根源的存在であるかに気づかされます。そしてその次に根源的な存在とは何かと問いかけたとき、おそらくこの四大元素と呼ばれるものが感じ取れるのではないでしょうか。硬く不変的な岩山や大地、流動的な川や海、軽やかに吹き抜けていく大気、そして昼間に感じる太陽の熱と暗闇の中で自らが起こす焚火の温もり。
重く収縮しようとする闇の性質と、軽やかに拡散しようとする光の性質とのドラマから、徐々に四大元素的存在が浮かび上がってきます。

色彩の本質を体験する
 色もまた世界の根源的要素です。色は光と闇が持つ収縮拡散という性質よりも更に多様な性質を持ち合わせていて、それがまるで人間の性格を表しているかのような特徴を有しているからか、光と闇以上に人の心に作用する力を持っています。物の外面としての色ではなく、色そのものの本質に意識を向けていくと、人はより内的に繊細になり始めます。色彩の本質を感じ取るア-トワ-クは、自らの心の扉を開くきっかけとなるでしょう。

 対極的な色「補色」の体験
 一つ一つの色彩は澄み渡るような美しさを有しています。しかし性質の相反する対極的な色と色が出会うとき、そこに真の意味での暗闇が姿を現します。その世界を私たちはどのように受け止めるでしょうか。その時、私たちは新しい可能性の扉を前にすることになるでしょう。

抽象表現への探究 物事の奥にある本質を掴む
 具象絵画では存在する物の外観の形、外観の色に主に焦点を当てて表現が試みられますが、抽象表現では存在の内的性質の表現がよりダイレクトに試みられます。世界の表層の奥にあるリアリティ、本質へ目を向けようとする成長の時期において、物事の内にある存在の表現を試みた課題は大きな意味を持ってくるものとなります。

白黒絵画の模写から抽象的表現へ
 自分で気に入った具象絵画(白黒コピ-したもの)を、光と闇のドラマに注意を向けながら客観的に模写し、その世界から感じ取った内容を、今度は色彩を使って主観的に表現していきます。具象物に付属していた形や色を必要に応じてゆっくりと解放していきながら、自分の表現したいテ-マ(本質)に向けた創造活動を行っていきます。

 心の世界「感情」を表現する
 この時期になると外世界以上に自らの心の世界に強い関心を抱いているのではないでしょうか。益々豊かになり、その対極的性質を露わにする感情は、自らが思い描く理想と現実の間で不安定に揺れ動きます。自分の心を揺り動かす感情とは一体どの様な存在なのか、いくつかのア-トワ-クを重ねながら探求していきます。

「怒り」
「悲しみ」
「高慢」
「悲しみ」
「愛情」
「調和」
「勇気」

様々な対極への気づきを通して 調和的美の創造への取り組み
 宇宙空間、地球環境、自然、人体、人間社会に至るまで、この世界の至る所で調和的な力が作用しています。そしてその力は私たちひとりひとりの心の中の世界にも必要とされているものです。様々な対極の働きかけの中で調和が生じたとき、人はそこに美を見出します。
 これまで取り上げてきたア-トワ-クひとつひとつの中には、各々が自らの感性で掴み取っていけるような調和的美の創造への取り組みが含まれています。十代の若者にとってその活動はまだぎこちないものですが、彼らが大人になった時、その力はより強く発揮されてくるでしょう。


 生き物たちは本能に従って生きることによって調和的環境に貢献していますが、私たち人間は本能に従って生きることだけでは調和的環境の破壊者となってしまいます。私たちは意識的に調和的美を創造していくことが求められています。その力は人間だけに与えられたものであり、人間の証と言えるもの。
美術はそれを学ぶことを可能にしてくれる大切な科目となりうるのではないでしょうか。
                       (curiousこども絵画造形クラス 細井信宏)